北米ギター放浪記

番外編#2「ブレゲンズ」

2008年7月27日

この日はさらに南下してオーストリアのブレゲンズまで行きます。今回の滞在地の中でプラハに続いてライブの予定が入っていない場所です。レムゴで世話になったB氏の同僚であるG氏という人の家に泊まらせて貰うことになっています。日程に余裕があれば「サウンド・オブ・ミュージック」の舞台になった場所にも行きたいところですが、土地勘・距離感がまったくないので、とりあえず真っ直ぐブレゲンズを目指すことにしました。

routemap

前夜からの雨も止み、晴れ間がのぞく中でバーベキューの残り物で朝食を頂き、その後、M氏のCDコレクションやギター部屋を見せて貰いました。チェットのレコードは全部持っていて、すべてCD化してあるとのこと。ギターは私の自宅ほどの広さの部屋いっぱいに相当な本数飾ってありました。私はコレクターではありませんが、こういう環境は日本のコレクターが見たら生唾ものでしょう。

10時過ぎに家を出て、M氏の運転でインゴルシュタッド駅に向かいました。途中で再びドナウ川に架かる小さな橋を通りました。前日は通り過ぎてから気付いたので川そのものは見ることができませんでしたが、この日は予め分かっていたので川そのものも見ることができました。写真などでよく見るドナウ川とはほど違い、川幅数メートルぐらいの小さな川でした。駅に到着後、お昼用にサンドイッチを買い、一緒に来ていたM氏の息子さんにお駄賃としてボトル入りのガムを買ってあげました。間もなく列車が到着し、お礼を言って再会を誓ってから乗り込み、区分けされている一等車セクションの一人掛けシートに腰掛けました。駅での手を振りながらのお別れも情緒があっていいものです。ブレゲンズに行く特急にはUlmという駅で乗り換えることになっていて、その駅までは約15分だとM氏が教えてくれたので、その間にサンドイッチを頂きました

Ulm駅では1aというプラットホームに到着したのですが、この1aとは、1の先端に設けられたもので、1以外のプラットフォームに行くには、1の反対側の端にある地下通路を使うしかありません。大荷物を抱えて早足で通路を目指しましたが、5分の乗り換え時間では間に合わないように思えるほど遠くにあり、おまけに、通路へは階段ではなくなだらかなスロープになっているので、通路そのものにたどり着くまでに相当な距離歩かなくてはいけません。通路へのスロープに差し掛かったあたりでかなり焦り出し、半ば諦めかけましたが、後ろから大柄な年配の女性が大荷物を抱えて凄い形相でこちらに向かって来ました。恐らく彼女も同じ列車に乗り換えるのでしょう。その勢いに押されるように私もピッチを上げて何とか隣のホームに停車していた列車に乗り込むことができました。これまで乗った特急はどれも近代的な列車でしたが、この列車は寝台車のような古いタイプのものでした。片側が通路になっていて、並んでいるドアを開けると4人掛けのボックス席になっています。日本だったら6人掛けになりそうなスペースに4人なのでとてもゆったりしています。乗り込んだ時点では私の分も含め3席が埋まっていて、斜め向かいには年配のスーツを着た男性が、隣には初老の上品な女性が座っていました。次の駅で男性が降り、以降はその女性と二人きりになりました。Frederichshafen Stdtという駅でなかなか発車しなかったので、何かあったのかと窓の外を見ていると、その女性が、ここで先頭の機関車を切り離し、最後尾に新たな機関車を連結して逆方向に走り出すということを教えてくれました。山越え用とのこと。ならばと、進行方向に顔が向く方の席に移動した方がいいと思い、荷物だけを残して向かいの席に移ると、女性も同じように向かいの席に移動し、再び隣同士となりました。このあたりから会話も弾み出し、YouTubeが縁で日本からイギリス〜ドイツ〜イタリアと演奏巡りしていることを伝えたら、とても興味深そうに聞いてくれました。「どこにでも行くの?」と聞かれたので、「近くに来ていれば行きますよ。」と答えたところ、連絡先を知りたいとのこと。名刺の持ち合わせがなかったので、紙にメールアドレスとHPアドレス、それにYouTube名を書いて渡しました。たまたまドイツに居る時に声が掛かれば良いのですが。

女性と話し出してからは時間があっという間に過ぎ、ほどなくしてブレゲンズに着きました。女性に遠慮なく連絡してくださいと伝えてから列車を降りるとすぐに若い男性が話し掛けてきました。この日世話になるG氏です。ギターを背負っているからすぐ分かったとのこと。B氏の同僚ということでそこそこ年配の方かと思っていたので少し意表をつかれました。アパートは駅のすぐ近くで、部屋に入ると、別のカップルがいました。女性の方はベルリンから来ているドイツ人で、男性はベルリンでオーケストラに入っているというサックス吹きのカナダ人でした。北米英語は今回の旅では初めてだったので、どこかホッとしました。G氏いわく、昨晩突然やってきて、女性の方はG氏の前の彼女とのこと。大型の犬も一緒でした。アパートは、ボーデン湖のほとりにあり、目の前から遊覧船が出るらしく、多くの観光客が集まっていました。その先の湖上特設ステージではフルオーケストラを従えたオペラが上演されるとのこと。今回の旅では観光はまったく頭にありませんでしたが、観光スポットのど真ん中にいる以上、これを楽しまない手はありません。チェシャムのK氏、レムゴのB氏やH氏は皆私よりも年上で、お世話になるという感じでしたが、ここでは私がダントツの年長者です。一息入れてから4人で飲みに行くことになりました。

best shot

特設ステージのこの日の演目はプッチーニのToscaでした。湖のほとりでプッチーニとはお洒落です。入場料がかなり高額だったので中には入りませんでしたが、舞台は隙間から覗け、音ははっきりと聞こえて来ました。会場近くのオープンカフェ風のバーで飲み物を注文し、空いている席に座ると、小さなステージにギターを持った人が上がりビートルズを歌い出しました。少し離れた席にいた若者達がかなり酔っていてうるさかったのですが、その中の一人が寝込んでしまい、その彼だけ置いて他の連中はどこかに行ってしまいました。彼が目を覚ましたらどうするのかなどを予測しながら飲み物を頂いていると、10分程してその若者が起き、仲間がいないことに慌てたのか、立とうとした時に見事に椅子から転げ落ちました。これは誰も予測していなかったことでしたが、見ている方は十分楽しめました。

Tosca

アパートに戻り、バルコニーでビールを飲み出したので、私はギターを弾くことに。この日は一度も弾いていなかったので練習も兼ねてでしたが、まったりとしたとてもいい雰囲気でした。カップルはそのままバルコニーで寝るというので、私とG氏は部屋に入り、私は居間の大きなソファで、G氏は自分の寝室でそれぞれ眠りにつきました。ブレゲンズという場所については聞いたことがある程度で予備知識はほとんどありませんでしたが、とてもリラックスした有意義な時間を過ごさせて貰いました。

*文中に登場する人物は、本人の確認が取れるまではイニシャル表記にしてあります。

「インゴルシュタッド」Supporter's Area「イタリアへ」

目 次

はじめに
出国まで
シアトル
カリフォルニアへ
休息日
サニーベール
LAへ
レドンドビーチ
ツーソンへ
アルバカーキ
コロラドへ (奇跡の旅の始まり)
バーザウド
デンバー
オクラホマシティーへ
オクラホマシティー 2 days
テキサスへ
サンアントニオ
ジョージタウン
ダラス
ヒューストン 2 days
ベントン
ナッシュビル (CAAS)
ロスウェル
タンパ 2 days
マイアミ
オーランド 2 days
マートルビーチ
チャペルヒル 3 days
キングスポート
インディアナへ
インディアナ州フィンガースタイルコンテスト
スタテンアイランドへ
マンハッタン
フィリップスバーグ
ナザレス(マーチン工場)
マサチューセッツへ(奇跡の完結)
メシュエン
モントリオールへ
バッファローへ
メドヴィル前乗り
メドヴィル幽霊ホテル
デトロイト
シカゴ
ミネアポリス
番外編
番外編#2「2008年欧州ツアー/出発まで」
チェコ1
チェコ2
ロンドン
リバプール
チェシャム
ドイツへ
レムゴ
インゴルシュタッド
ブレゲンズ
イタリアへ
フィレンツェ
最後のライブ
帰国