北米ギター放浪記

オーランド 2 days

2014年7月18日〜19日

オーランド初日の予定もないまま北上していると、コロラド州バーザウドでお世話になったチャックから「オーランドの予定はあるのか?」と電話が入り、翌日はあるけどこの日は特にないことを伝えると、しばらくしてまた電話が入り、オーランドの北50キロぐらいのユースティスという町にOlivia's Cafeという店があり、今日そこでオープンマイクをやっているとのこと。フロリダに来て少し演奏に飢え始めていたので、取りあえずはそこを目指すことに。面白いことに、マイアミのテラスを教えてくれたニュージャージーのD氏と、この日の店を教えてくれたコロラドのチャックは、お互いのことは知らないし、私の中でも二人の接点はありませんでした。ところが、このあと思わぬ所で彼らがすべて繋がることになるのです。もちろん、この時点では私自身もそんなこと知る由もありません。チャックにお礼をしてから教えられた住所までナビの指示通りに向かいました。

途中、翌日に会う予定にしていたO氏から日本料理屋で演奏できるとの連絡が入りました。お茶ぐらいに思っていたので嬉しい知らせです。ただ、私も何年か向こうの日本料理屋で働いたことがあり、大体の雰囲気は分かっていたので、この時点ではそれがどんなものになるのかは想像もできませんでした。この夜の宿がまだ確保できていなかったので、途中の道沿いに見えた安モーテルを一通り記憶しながら店に着き、まずオープンマイクにサインアップしました。この時点では私はまったくのよそ者で、完全にアウェイな空気が漂っていましたが、そんなことはお構いなしに指馴らしをしながら出番を待ち、与えられた15分間ひたすら弾き続けました。その後は、目星を付けていた安そうな宿に向かうつもりだったのですが、ステージから降りて来た時点でアウェイ感は完全に消えていて、「これからどうするのか?」「まだ時間はあるのか?」などと聞いてきました。「今晩は宿に戻るだけ」と答えると「宿はどこ?」と来たので、目星を付けていた宿を言うと「そのエリアは安全じゃないから、ここにしろ」と教えてくれたのはいいのですが、そこは決して安モーテルではなかったので私の中では候補には入っていませんでした。更に「チェックインしたらまた戻って来て弾いてくれ」と完全に歓迎モードだったので、ここは言われるがままにしようということで限りなくホテルに近いそのモーテルに行くと、思ったほどの値段ではなくホッとしたのでした。

チェックインしてギター以外の荷物を部屋に運んでから再び店に戻ると皆さん笑顔で迎えてくれました。音楽の力は大したものです。このようなアウェイ感が一気に歓迎モードに変わるのは、この後も何度か経験するのでした。自分の演奏がこれほど分かりやすく認められるのはかなりの自信になります。肩書きや知名度などで先入観を持たない人には通じるということです。

気分よくモーテルに戻ってその晩は快眠しました。翌日は、昼過ぎにO氏家族とオーランドの楽器屋で待ち合わせ、その後一緒にフードコートでランチをしました。O氏とは30年前に短期間同じ演劇に関わったというだけで、私は楽隊、彼女は女優と一緒に何かをすることもなかった間柄でした。日本ではこのような再会を申し出ることすらなかったでしょう。海外ではこのようなことができてしまう自分の図々しさに気付くのでした。

夕方にその日に演奏するRANGETSUという日本料理屋に行きました。K氏という日本の方が店長を務める正真正銘の和食屋です。かなり広い店だったのでここでもAERが真価を発揮してくれました。前日告知にも関わらず、ファンだと言う方も何人か来られ、また、そこで初めて聴いてファンになってくれた方もいました。まさに昨日の今日でこのようなセッティングをしてくれたO氏には、感謝のしようもありません。K氏の「ギターは勿論だけど、それを武器に全米を巡って現地の人達と触れ合っているという貴方の行動に感銘しました」との言葉にはハッと何かに気付かされた気がしました。ギターや音楽は所詮きっかけに過ぎず、それらを通じたコミュニケーションを楽しんでいる自分がいたからです。もちろん、人に聴かせるレベルの技術は必要でしょうが、上手い下手だけで語ることには虚しささえ感じます。その先にもっと素晴らしいことが待っているのです。

次の目的地であるサウスカロライナ州マートルビーチまではナビによれば8時間とのことなので、演奏終了後に出発するつもりでした。O氏一家は少し前にお帰りになっていたのですが、K氏がわざわざ見送りに店の前まで出て来て紙袋を渡してくれました。中身はすぐに想像できましたが、お弁当です。つい数時間前に初めて会ったばかりのどこの馬の骨とも分からない私に言葉通り至れり尽くせりのおもてなし。お礼を言いながら泣きそうでした。五輪誘致プレゼンで使われた「おもてなし」が日本の専売特許だと思ったら大間違いです。日本のはあくまでも様式や形式があるというだけで、心からのものとはまったく次元が違います。

こうして、タンパでまったりと始まったフロリダ半島巡りは、マイアミで少し惨めになり、オーランド初日で形勢逆転し、最後は感動の幕切れとなったのでした。

*文中に登場する人物は、本人の確認が取れるまではイニシャル表記にしてあります。

「マイアミ」Supporter's Area「マートルビーチ」

目 次

はじめに
出国まで
シアトル
カリフォルニアへ
休息日
サニーベール
LAへ
レドンドビーチ
ツーソンへ
アルバカーキ
コロラドへ (奇跡の旅の始まり)
バーザウド
デンバー
オクラホマシティーへ
オクラホマシティー 2 days
テキサスへ
サンアントニオ
ジョージタウン
ダラス
ヒューストン 2 days
ベントン
ナッシュビル (CAAS)
ロスウェル
タンパ 2 days
マイアミ
オーランド 2 days
マートルビーチ
チャペルヒル 3 days
キングスポート
インディアナへ
インディアナ州フィンガースタイルコンテスト
スタテンアイランドへ
マンハッタン
フィリップスバーグ
ナザレス(マーチン工場)
マサチューセッツへ(奇跡の完結)
メシュエン
モントリオールへ
バッファローへ
メドヴィル前乗り
メドヴィル幽霊ホテル
デトロイト
シカゴ
ミネアポリス
番外編
番外編#2「2008年欧州ツアー/出発まで」
チェコ1
チェコ2
ロンドン
リバプール
チェシャム
ドイツへ
レムゴ
インゴルシュタッド
ブレゲンズ
イタリアへ
フィレンツェ
最後のライブ
帰国