北米ギター放浪記

番外編#2「リバプール」

2008年7月22日

7時過ぎに窓からの日差しで目が覚め、まずはお湯を沸かして少し冷ましてから喉を潤しました。土門氏が来るまでは外出もできないので、窓からの景色を眺めていると携帯の呼び出し音が。私が日本にいると思って掛けてきた日本の知り合いでした。この人にはツアーのことも伝えてあったのに、すっかり忘れていたようです。その直後にバッテリーが残り僅かとの警告が出たので、チャージを始めたところ、1分もしないうちに電源が落ちて、それ以降、電源が一切入らなくなりました。出発一週間前にドコモショップで事情を伝え、世界各国で使えるという機種にわざわざ変えたのに、充電器には「国内のみで使用可」と書いてあります。「充電器は前の機種のをそのままお使い頂けます。」と教えてくれたドコモショップの女性が恨めしく思えました。ロンドンであればドコモの支店ぐらいあるかもしれませんが、これから行程を考えると、市内をウロウロしている時間はありません。携帯そのものにダメージがないことを祈りつつ、以降は電話なしで行くしかないと諦めました。携帯は時計代わりにも使っていたので、時計も同時になくなったことになります。

この旅の中で唯一、演奏目的ではなく訪れたいと思った街が、この日向かうリバプールです。ビートルズの曲を弾くものとして、イギリスまで来て行かないと罰が当たります。事前に調べたところ、ロンドンからリバプールは特急で2時間半ぐらいなので、「のぞみ」で東京から大阪に行くような感じでしょうか。顔を洗って荷物を整理しているところに鍵を持って土門氏の知り合いが来たので、翌日の2時か3時頃には戻るので、荷物をそのまま置かせてもらえるようにお願いし、ギターと一泊分の荷物だけを持ってフラットを出ました。リバプール行きの特急はユーストンという駅から出るので、そこまでの行き方も教わりました。駅でペットボトルの水を購入してから路線図でルートを確認しました。ロンドンの地下鉄は車内が狭い。大柄な人が多いから狭く見えるのかと昨日は思ったのだが、実際に狭くてエアコンもないので、荷物抱えたまま立っているだけで汗ばんできます。乗り継ぎも迷うことなくEustonに着き、まずはリバプール行きのチケットを購入しました。掲示板にはプラットホームの番号が表示されていなかったので不安になり近くにいた人に聞いてみると、出発前には決定するとのこと。日本の鉄道とはこのへんの感覚はかなり異なるようです。出発までは20分ぐらいだったので、ハンバーガーとコーヒーを買って掲示板を眺めていると、プラットホーム番号が表示されたので、そちらに向かって歩き始めました。日本で言う改札はなく(地下鉄にはあった)、すでに電車は停まっていて乗車できる状態でしたが、一応、駅職員風の制服を着た人に、それがリバプール行きであることを確認してから乗り込み、適当な席に着きました。その車両は"Quiet Zone"と呼ばれるものらしく、携帯やヘッドフォンなどに×マークの付いたサインがありました。iPodでビートルズを聴きながら向かおうと思っていたのですが。とりあえずハンバーガーとコーヒーで遅めの朝食を取り始めたら電車が出発しました。ロンドンから離れるにつれ、景色も徐々にのどかなものに変わっていきました。

通路を挟んだ席に座っていた二人の老婦人がずっと喋っていたので、iPodも音漏れしなければよいのではと思い、途中から音量を絞ってiPodを聴き始めました。元々大音量で聴く方ではないので、多分問題ないだろうとの判断です。実際、車掌さんが通っても特に注意はされませんでした。リバプールの一つ前の駅のホームに面白いオブジェがありました。どこか映画の「イエローサブマリン」のキャラクタを連想させます。

Objects

リバプールには定刻通りに着きましたが、迎えに来ると言っていたH氏の姿が見えない。先方には私の番号は伝えてありますが、肝心の携帯は電源も入らない状態です。しばし、駅の端にあったベンチに腰掛けてボーッとしていたが、30分近くになると少し焦り始めました。ロンドンにもリバプールステーションという駅があったので(前日土門氏に迎えてもらった駅)、もしかしてそこで待っているのではなどと思いながら表に出て辺りを見回しても特にビートルズを感じさせるわけでもなくいたって普通の街です。「とりあえずリバプールに来た」ということでこのまま引き返すことも頭を過り出した時にH氏が小走りでやってきました。彼女は日本で知り合ったリバプール出身の方で、少し前の情報ではオーストラリアにいるとのことでしたが、ダメ元でイギリスに行くことをメールしたら、一時的にイギリスに戻っているとの返事が来て、リバプールに来れば友人のフラットに泊めてくれるとのこと。有り難い限りです。

Ms.H

まずはランチでもということで駅前の古びたレストランに入ってハンバーガーを頂いた。一緒に来たC氏は訛りが強くて何を言っているのかほとんど理解できませんでしたが、どこか聞き慣れた訛りです。まずは、キャバーンクラブに連れて行ってくれるとのこと。車に荷物を置いて行くと言うので徒歩で行ける距離にあるのでしょう。道端の何カ所かに、様々なペイントが施されたヘルメットがずらっと並んでいるボードがありました。日本でもよく駅などに小学生の描いた絵が張られていますが、あれのヘルメットバージョンなのでしょう。リバプール駅前には一つ前の駅で見た奇妙なキャラクタの一回り大きなオブジェもありました。その後も道のあちこちにこのキャラクタは展示されていて、街全体が自然にアートしていました。

キャバーンクラブは営業はしていませんでしたが見物はできるとのことで、地下まで降りて、そのままぐるっと店内を巡ってきました。元の場所から移転した再現バージョンであるということを聞いていたので、特に強い思いはありませんでした。次に波止場の方にある博物館に向かいました。タイタニックに縁があったり、奴隷貿易で栄えた歴史もある街だということは知りませんでした。ちょっと一息ということでスターバックスに入ると、土産コーナーにはなぜかビートルズグッズだらけで、衝動的にTシャツを二枚買ってしまいました。

Cavern Club

一通り巡った後に駅前の駐車場に戻り、C氏の運転でその晩お世話になるフラットに向かいました。ビートルズのビデオなどでよく出て来る長屋風の建物が連なる地域にあり、実はこの景色に一番感動したかもしれません。向かいの家の前では子供達がサッカーボールを蹴っていました。

Liverpool

フラットで少しゆっくりしてからそこの住人のJ氏とH氏の3人でタクシーで再びダウンタウンに向かい、メキシコ料理屋に行きました。J氏が私が来るというのを理由にTボーンステーキがどうしても食べたかったとのこと。イギリスの食事についての情報はほとんどありませんでしたが、前日は中華、そしてこの日がメキシカンと、実際にどのへんがイギリス料理なのかは不明なままです。

その後、昼間に寄ったキャバーンクラブまで行きましたが閉まっていたので、すぐ近くにあるグレープスというビートルズがキャバーンクラブでの演奏の前後によく寄ったというバーに入りました。店の作りは当時のままとだそうです。平日にも関わらず大賑わいで、ビートルズの面々がよく使っていたというボックス席は50代後半と思われる女性達で占領されていて、その女性達の後ろには、実際にビートルズの面々がそこに座っている写真が大きく引き伸ばした状態で張ってありました。店内に流れる大音量のBGMはなぜかストーンズでした。

途中、表に出て色々な角度から写真を撮っていると、H氏の知り合いという方が出てきて「リバプールは初めてか?」と話し掛けてきました。イギリス自体が初めてで明日チェシャムという街でライブをすると伝えると、「俺も昔はバンドを組んでやってた。本当は今でもやりたいんだけどもう歳も歳だし」と、どこか私が若者であるかのような喋り方でした。「いくつですか?」と聞いたところ42歳とのこと。私が50歳であることを伝え、仕事としてやるやらないは別にして音楽をやめる必要はないのではと私の考えを話しました。私の年齢に驚きつつも真剣にうなずきながら聞いてくれました。帰りのタクシーも偶然行きと同じ運転手で、それまでの誰よりもきつい訛りがあり、最初は英語ではないと思ったぐらいです。H氏いわく「これが本物のリバプール訛り」だそうです。

Grapes

こうして無事聖地リバプール巡りを終えることができました。ペニーレーンなど行きそびれた場所もあったので、今度はビートルズを弾きに来ることを心に誓いつつイギリスで初めてのベッドでの就寝となりました。翌日はいよいよこのツアーのメインイベントの一つであるチェシャムでのライブです。

*文中に登場する人物は、本人の確認が取れるまではイニシャル表記にしてあります。

「ロンドン」Supporter's Area「チェシャム」

目 次

はじめに
出国まで
シアトル
カリフォルニアへ
休息日
サニーベール
LAへ
レドンドビーチ
ツーソンへ
アルバカーキ
コロラドへ (奇跡の旅の始まり)
バーザウド
デンバー
オクラホマシティーへ
オクラホマシティー 2 days
テキサスへ
サンアントニオ
ジョージタウン
ダラス
ヒューストン 2 days
ベントン
ナッシュビル (CAAS)
ロスウェル
タンパ 2 days
マイアミ
オーランド 2 days
マートルビーチ
チャペルヒル 3 days
キングスポート
インディアナへ
インディアナ州フィンガースタイルコンテスト
スタテンアイランドへ
マンハッタン
フィリップスバーグ
ナザレス(マーチン工場)
マサチューセッツへ(奇跡の完結)
メシュエン
モントリオールへ
バッファローへ
メドヴィル前乗り
メドヴィル幽霊ホテル
デトロイト
シカゴ
ミネアポリス
番外編
番外編#2「2008年欧州ツアー/出発まで」
チェコ1
チェコ2
ロンドン
リバプール
チェシャム
ドイツへ
レムゴ
インゴルシュタッド
ブレゲンズ
イタリアへ
フィレンツェ
最後のライブ
帰国