北米ギター放浪記 番外編#2「ロンドン」 2008年7月21日 朝6時過ぎにI氏と家を出て、バス、地下鉄、バスと乗り継いで8時ちょっと過ぎにプラハ空港に着きました。帰国前日の31日の夜にフィレンツェからプラハに戻り、翌日の午後2時の飛行機で日本に向かうので、空港にある唯一のホテルを予約しておこうということになり、ホテルまで直接行ってI氏がチェコ語でやってくれました。私はただ横に立っているだけでした。フロントの態度が横柄なのが気になりましたが、確認のメールを送るというので、とりあえず予約手続きはできたのでしょう(このホテルとは後日揉めることとなるのでした)。 プラハからの飛行機はなんと自由席でした。初めての体験です。取りあえず最初に見つけた席に着き、間もなく眠りについたのでした。私の便はロンドンの北東に位置するスタンステッドという空港行きのもので、ロンドン市内までは電車で40分ぐらいとのことなので、新千歳から札幌みたいな感じでしょう。事前に入国手続きはかなり厳しいと聞いていましたが、プラハから来た便だったからか、荷物を特に見るでもなくすんなり通してくれた。ところが、ギターが見当たりません。最後まで待っても出てこないので、空港職員らしき人に尋ねたところ、ギターなどの楽器はベルトコンベアではなく人が運んでる可能性があるとのことで、別の場所に行くように指示されました。ほどなく自分のギターが目に入り、お礼を言ってから道標をたよりに電車に乗る場所へと急ぎました。ホームにあった売店サンドイッチと水を購入しがてら停車中の電車がロンドン方面へ向かうものであることを確認しました。 車内では、日本で言うボックスシートの真ん中にテーブルがある席に座り、初めてのイギリスの景色を眺めながらサンドイッチを頂きました。終点のリヴァプール・ストリート駅近くになると少し都会らしくはなってきましたが、日本のようにどこまで行っても家や建物が密集しているというような状態ではありませんでした。 この日お会いする土門秀明氏は、ノルウェーからYouTubeに寄せられた「お前のIn My Lifeは土門氏の次に素晴らしい」というコメントが縁で知り合った日本の方で、メッセージでは何度かやり取りしていましたが、実際に会うのは初めてです。ロンドンの地下鉄でバスキングをされているそうです。駅に着いて人の流れに任せて進むと改札のようなゲートの向こうで土門氏が手を振っているのが見えました。初めての土地で迎えてくれる人がいるというのは何とも心強い限りです。待たせてしまったことをお詫びをしてから、地下鉄でその晩にお世話になるフラット(アパート)まで向かいました。この日は、奈良から観光できている女性の歌い手さんとオープンマイクに行くとのことで、空きがあれば私も出るということになりました。二人が練習している間、私は邪魔にならないように屋上に行きロンドンの街並を眺めることに。空は真っ青で、土門氏いわくこんな快晴の日は年に何度かしかないそうです。 夕方前に再び地下鉄に乗ってオープンマイクを開催している店があるレスタースクエアに向かいました。店はスクエアに面した角地にあり、一階がレストランバー風で、その奥から下った地下がオープンマイクの会場でした。すでに何人かいましたが、まだまだ予約には余裕があったので、私も彼女も無事出番を確保できました。朝が早かったこともあり私は早めの3番目にしてもらいました。これからの旅の中で人前で演奏するための予行演習を兼ねたものではありましたが、何と言っても初めてのイギリスでの演奏です。いつも以上に気合いが入りました。 トップバッターの女性の弾き語りと2番目の人との入れ替え時にギターを抱えて店を出て、上のレストランに上がる階段で指馴らしをしました。他にも何人か練習している人がいましたが、それぞれ真剣で、会話できるような雰囲気ではありませんでした。最初の2人はオリジナルしかやっていなかったので、仕切っている人のところに行ってカバーはありか聞いてみたところ、「基本はオリジナルだが、別に構わない」とのこと。お客さんも一通りの席が埋まるぐらいまで増えていていい感じになってきたところで私の番となりました。少し走り気味になりましたが、2曲目ではお客さんの口ずさむ声も聞こえてきて、とてもいい雰囲気の中で演奏できました。 奈良の彼女のステージは7番目でした。私が席に戻るとかなり緊張されていたので、肩を少し揉んであげました。ギターの場合は緊張し過ぎるとそれこそ聴くに耐えられない演奏になってしまいますが、彼女は緊張しつつも堂々としたステージをしていました。大したものです。自分達の出番が終わってすぐに出てしまうのでは失礼なので、彼女の演奏後に数人聴いてから店を出て、彼女とはそこで別れました。私も土門氏もお腹が空いていたので、近くの中華料理屋に入りました。土門氏いわく「店員の態度の悪さでギネスブックに載っている」お店とのこと。私は炒飯を頼んだのですが、大の苦手としているグリーンピースが山のように入っていました。こういう場合、全部取り除いてから安心して食べるのですが、何せ店員の態度が悪いことで有名な店です。グリーンピースを除けているのを見られたら椅子を蹴られかねません。手や体全体を使って皿を隠すようにコツコツと作業を続け、一通り取り除いた頃には炒飯は冷めていました。 帰りは二階建てバスで帰りましょうという土門氏の粋な計らいで、ロンドンバスで荷物を置いたフラットまで戻り、ベッドやシャワーは使わないなどの注意事項を念押しされ、明日の朝また来ますとのことで、土門氏は自分のフラットに帰っていきました。初めてのイギリスで初めてのライブ、それに初めてのロンドンバスと、初物の多い一日でした。しばしボーッとしていたが、そのうち喉が渇いていることに気付き、何か飲み物でも買ってくればよかったなどと悔やんだ。鍵はオートロックなので、一度出て戸を閉めたら入れません。窓から見る限り、近所に店らしきものも一切ありません。生水は恐いので、水道水を一度沸騰させてから冷まし、それで喉を潤すことに。ソファのシート部分を引き出せば簡易ベッドになるとのことだったが、何かが引っかかって出てこないうえ、ソファの前にそれほどのスペースもなかったので、そのまま床で寝ることにしました。 *文中に登場する人物は、本人の確認が取れるまではイニシャル表記にしてあります。 |
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はじめに
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