北米ギター放浪記

インディアナ州フィンガースタイルコンテスト

2014年7月26日

モーテルを早めにチェックアウトし、コンテストの会場となるBrown County Playhouseへと向かいました。インディアナ州のナッシュビルは、街全体が観光地のようで、ちょっと旧軽井沢のようです。集合場所となっている会場裏手には駐車スペースがなく、少し離れた民家前に路駐させてからギターだけを持って会場に向かいました。階段を下がったところにある裏口の扉を開けると既に参加者達がギターを抱えて黙々と練習していました。前夜祭で見た顔も何名かいましたが、前夜の和やかムードは完全に消えていて、部屋全体がピリピリしています。会話もほとんどありません。通りすがりで参加したことが申し訳ないといった雰囲気です。クジで順番を決めたことは覚えているのですが、その手順までは忘れました。とにかく、私は24名いた参加者の23番目で、その一つ前がエドガーでした。

全員揃ったところでコンテストの説明があり、「鼻をすする」と「声を出す」の二つはやってはいけないとのこと。この時点では、これが冗談なのか本気なのかは判断できませんでした。あと、前夜祭にはなかった「International」の文字がタイトルに加わっていたので、誰か私以外にも海外から来ているのかと思いきや、どうも私が来たからみたいです。不思議な感覚です。最初に数名による年少組のコンテストがあったので、息が詰まりそうな控え室を出て見に行くことにしました。今更弾き込んだところで急に何かが変わるわけでもありません。ホールは最初に場所を確認した際に見た入口の大きさからは想像もできないほど大きなもので、200人以上は楽に入りそうです。その立派さは、ここまでの旅の中で演奏した中では群を抜いていました。これだけでワクワクしたものです。下の写真はBrown County Playhouseの公式Facebookページから拝借したものです。

やがてシニアの部が始まり、私も再び控え室に。順番が近付くと、階段を上ってステージのカーテン裏に並んだ椅子に座って出番を待つように指示されるのですが、私は何しろ最後から2番目です。たまに外で一服する以外はずっと控え室にいました。出演前は声掛けたら怒鳴られそうな雰囲気だった人が、終わって降りて来たときは別人のように丸い表情になるのが面白く、途中からはその変化を「この人の方が大きい」とか勝手にランク付けしていました。実際、私が出る前にはほとんどの方は済んでいるわけで、控え室の空気は開始時とはまったく違う空気になっていました。私は気になりませんでしたが、果たして私の前後の人達はどう思ったのでしょうか。20番目の人が演奏する辺りで私も上に行くように指示され、指定された椅子に座ると隣にエドガーがいました。演者が入れ替わる度に一つずつ席をずれていき、エドガーの演奏はカーテンを挟んで聴くことに。「ボヘミアン・ラプソディー」ではない曲から始まったのですが、明らかに不調のようで、今まで聴いていた彼の演奏ではありませんでした。途中「ボヘミアン・ラプソディー」の一部を挟んだりして「勝ち」に来ているのは十分伝わってきました。後で聞いたら、使い慣れた足台をホテルに忘れてきたそうです。

私の番になり、名前の書かれた札を渡されてステージに行くと、ほぼ満席の観客に自然と笑みがこぼれました。札を所定の場所に置き、一曲目の「Penny Lane」を弾き出した時点で代謝がよくなり始め、歌詞でいう2番を弾いている時には鼻水が今にも垂れてきそうな状況に。そこは何とか持ち堪えて「ペニー・レーン」とサビに入った「レーン」の部分に被せるように鼻をすすりました。注意事項の説明が本気であればこの時点でアウトです。しかし、この失態を除けば、演奏そのものはそれまで幾度となく弾いてきた中でも群を抜いて完璧なものでした。二曲目は流れで決めようと思っていたので、「Penny Lane」の最終節で頭を過ったオリジナル曲「Folk Song」を続けて弾きました。当然、こちらも完璧でしたが、演奏後の観客の拍手が余りにも温かったので条件反射で「サンキュー」と小声で呟いてしまいました。してはいけないことを両方やったのは恐らく私だけでしょう。しかし、そんなことはどうでもいいという自分がそこにはいました。階段を降りると、それまで目も合わせてくれなかった人達が諸手を上げて私を迎えてくれました。もちろん皆さん笑顔です。ほどなく最後の演者の演奏も終わり、この時点ですでにファイナリストが決まっていたようで、私は入っていませんでした。注意事項が本気だったかどうかはさておき、頭は既にこの晩の運転の方に切り替わっていました。参加者の何人かが「何でお前は残っていないんだ」と詰め寄ってきましたが、ルールを守れなかったからだと思うと答えるしかありません。ただ、参加者に評価されていることは実感できたので、これだけで十分満足です。決勝を見るために観客席の方に行ったときも、近くの観客数人からも同じことを言われ、観客も私の演奏を楽しんでくれたことが伝わってきました。下の写真はIndiana State Fingerstyle Guitar Festivalの公式Facebookページから拝借させてもらいました。

流石に夜の部を見るだけのために残る余裕はなかったので、参加者やスタッフの皆さんにお礼とお別れを言ってから会場を後にしました。ちなみに、終演後に階段を降りてきた私を真っ先に笑顔で迎えてくれたヘレンさん(彼女も素晴らしい演奏をしたのですがファイナルには残っていませんでした)、9月のウィンフィールドでは見事優勝しました。

さて、いつまでも浮かれているわけにはいきません。ほぼ24時間後に始まるガーデンパーティーの会場までナビで12時間以上と示された距離を運転しなくてはならないのです。距離にして1,200キロ。今回の旅の中でも最もプレッシャーが高い移動の始まりです。

*文中に登場する人物は、本人の確認が取れるまではイニシャル表記にしてあります。

「インディアナへ」Supporter's Area「スタテンアイランドへ」

目 次

はじめに
出国まで
シアトル
カリフォルニアへ
休息日
サニーベール
LAへ
レドンドビーチ
ツーソンへ
アルバカーキ
コロラドへ (奇跡の旅の始まり)
バーザウド
デンバー
オクラホマシティーへ
オクラホマシティー 2 days
テキサスへ
サンアントニオ
ジョージタウン
ダラス
ヒューストン 2 days
ベントン
ナッシュビル (CAAS)
ロスウェル
タンパ 2 days
マイアミ
オーランド 2 days
マートルビーチ
チャペルヒル 3 days
キングスポート
インディアナへ
インディアナ州フィンガースタイルコンテスト
スタテンアイランドへ
マンハッタン
フィリップスバーグ
ナザレス(マーチン工場)
マサチューセッツへ(奇跡の完結)
メシュエン
モントリオールへ
バッファローへ
メドヴィル前乗り
メドヴィル幽霊ホテル
デトロイト
シカゴ
ミネアポリス
番外編
番外編#2「2008年欧州ツアー/出発まで」
チェコ1
チェコ2
ロンドン
リバプール
チェシャム
ドイツへ
レムゴ
インゴルシュタッド
ブレゲンズ
イタリアへ
フィレンツェ
最後のライブ
帰国