北米ギター放浪記

デンバー

2014年6月26日

バーザウドからデンバーまでは1時間も掛からず、夕方までに着けばよいということで、午後までバーザウドに居ることとなりました。いままで深夜か早朝にお別れするケースが多かったので、気分的にもだいぶ休めました。前夜のライブに来てくれたK氏とその彼女が庭先でポップコーンを売っているところを尋ねたり、W氏の家に行って彼のギターにサインをしたりして過ごしました。日本とイタリアの血が入っているこのW氏との出会いが、今回の旅が奇跡の旅になった由来でもあるのです。ただし、私もチャックもW氏もこの時点ではそんなことは知る由もありません。

バーザウド内はチャックのピックアップで移動したのですが、途中どこかで自分の車の鍵を落としたか置き忘れたことに気付き、立寄った先をもう一回巡ることとなりました。結局、郵便局で見つかったのですが、局員のオバちゃんは「車の鍵を忘れたら普通はすぐに取りに来るはずなのに、来ないからどうしたのかと思った」と驚いた様子でした。アメリカでは過去にギターを2台盗難され、その度に警官から真っ先に「諦めろ」と言われたぐらい1度失くしたものはまず出てこないイメージがあったのですが、バーザウドのようにコミュニティーがしっかりしている小さな町には、そのようなイメージはまったく当てはまらないということです。

3時頃にチャックの家を出てデンバーに向かいました。前から薄々感じていたのですが、アメリカと日本とでは別れ方が決定的に異なります。私からすればフラッと立寄っただけなのですが、先方にしてみれば非日常な時間を提供した者になるわけで、たった一晩一緒に過ごしただけでも別れ際には少し涙ぐむことも珍しくないのです。ハグをしながら再会を誓い合いつつ、お互いその確率は相当低いことは分かっているわけです。ところが、数歩車の方に向かって振り向くと、それまでベソをかいていた人がスタスタと足早に玄関の方に向かっていて、二度とこちらを振り返ることはないのです。感情が高ぶっているように見えたのは演技なのかと最初は勘ぐりましたが、彼らにすれば、車の姿が見えなくなるまで身を乗り出して手を振る日本人の方が妙に映るようです。どちらも一理あるので、以降は、お世話になる先の相手によってこちらの心構えも使い分けるようになりました。

ここまで読まれている方の中には、食事に関する話がほとんどないことにお気付きかと思います。元々食に関しては無頓着で、いつだったかは忘れましたが、1ドルちょっとで買えるM&Mだけで1日過ごしたこともあったぐらいです。三食好き嫌いせずに食べないといけないと言われ続けて病気もせずに還暦近くまで来てしまえば、それが思い込みであることを身体をもって証明しているようなものです。そんなわけで、この日もどのタイミングで食事を取ったのかは今となってはまったく思い出せません。

予定通りにデンバーのJ氏の家に到着し、促されるまま地下の部屋に行き、ギターをケースから出していると、近所のJ氏と奥さんのR氏を招いているとのことで、彼らの到着を待つことに。正確な年齢は忘れましたが、Ja氏とR氏は第二次世界大戦で日本と戦った世代でした。日本からひょっこり現れた私をどう思うのか最初は内心ビクビクしていましたが、私なりの戦争感を述べると興味深そうに話に乗って来てくれました。日本では、この話題になるとちょっとした言葉の端くれから反日か親日かのレッテルを貼られ、しまいには無意味な言い合いに発展することも少なくないので、まず私の方から持ち出すことはないのですが、自分と違う意見に耳を傾ける人とはとことん突っ込んだ話ができるのです。

Ja氏夫妻を玄関まで送ってから部屋に戻ろうとすると、J氏がこっちに来いと手招きするので、言われるがままに家の裏手に回ると、そこには大きなプール付きの庭がありました。プールサイドで再びギターを弾いたり、ワンポイントレッスンなどをしながらデンバーの夜は更けていったのでした。

*文中に登場する人物は、本人の確認が取れるまではイニシャル表記にしてあります。

「バーザウド」Supporter's Area「オクラホマシティーへ」

目 次

はじめに
出国まで
シアトル
カリフォルニアへ
休息日
サニーベール
LAへ
レドンドビーチ
ツーソンへ
アルバカーキ
コロラドへ (奇跡の旅の始まり)
バーザウド
デンバー
オクラホマシティーへ
オクラホマシティー 2 days
テキサスへ
サンアントニオ
ジョージタウン
ダラス
ヒューストン 2 days
ベントン
ナッシュビル (CAAS)
ロスウェル
タンパ 2 days
マイアミ
オーランド 2 days
マートルビーチ
チャペルヒル 3 days
キングスポート
インディアナへ
インディアナ州フィンガースタイルコンテスト
スタテンアイランドへ
マンハッタン
フィリップスバーグ
ナザレス(マーチン工場)
マサチューセッツへ(奇跡の完結)
メシュエン
モントリオールへ
バッファローへ
メドヴィル前乗り
メドヴィル幽霊ホテル
デトロイト
シカゴ
ミネアポリス
番外編
番外編#2「2008年欧州ツアー/出発まで」
チェコ1
チェコ2
ロンドン
リバプール
チェシャム
ドイツへ
レムゴ
インゴルシュタッド
ブレゲンズ
イタリアへ
フィレンツェ
最後のライブ
帰国