北米ギター放浪記

デトロイト

2014年8月9日

各地で決まって聞かれたのが「デトロイトにも行くのか?」でした。数年前に市が財政破綻したのは聞いていましたが、相応に治安も悪くなっているとのこと。かつて自動車産業のメッカとして、またモータウンサウンドの街として栄えたのが嘘のようです。私の中では何と言ってもポール・サイモンの「Papa Hobo」で歌われるこの街のイメージが強かったので、少しぐらい汚れた部分があった方がいいのですが。

Detroit

ナビで5時間弱の距離を順調に7時間ほどで走破し、無事コロラド州バーザウドのチャックのお母さんクレオ宅前に到着しました。こうやって家の前まで行ってしまえば治安の悪さなどを感じることもないわけで、免許を取っていなかったらそもそも来なかったかもしれません。

Roadmap to Detroit

車を停めて家の方を見ていると、一人の若者が出て来て「ヒロシか?」といつものパターンです。ギターとスーツケースをトランクから出して家に運び入れ、この日演奏するという場所まで案内されました。25メートル×10メートルほどの大きなプールがあり、長い方の端の中央にある飛び板の付け根の部分に椅子が置いてあり、ここで演奏するとのこと。椅子はプールサイド側に置いてありますが、ギリギリ足とマイクスタンドを置く部分まではセーフというレベルで、少し前に出ればビヨンビヨンとなります。飛び板ですから。しかも、何かを落とせばほぼ100%の確率で水の中です。慎重にAERを椅子の下に設置し、チューナーなどの小物はできるだけ背後に置くようにして何とか準備が整いました。

Swimming pool

ステージに昇る階段

果たして皆さんどこに座るのだろうかなどと思いながら、テラスにあったテーブルの前で指馴らしを始めると、チャックのお姉さんやら親族知人が大勢やって来てにわか演奏会状態になりました。小一時間そのような状況が続き、指は完全に温まったのですが、会そのものは一向に始める気配がありません。中にはすでにかなり出来上がった人もいます。そこで「まだ始めないの?」と聞くと、「クレオが来るまでは始められない」とのこと。その言い方は絶対的で、よくギャング映画などで見るイタリア系アメリカ人そのものでした。要はクレオはゴッドマザーなわけです。ユニークな場所で演奏するのもきっとクレオの鶴の一声で決まったのでしょう。誰も疑念を挟んではいけないのです。

Playing

さらに30分ほどしてクレオがやっと到着し、パーティーの始まりです。私の位置から見て右手に少し広めの原っぱがあり、そこに近所の人達などが大勢集まってきました。クレオ達は私の対岸、つまり25メートル離れた場所に陣取りました。このシチュエーション、理解しようとすると頭が変になるので、遠くから叫ぶように聞こえるリクエストに私も叫ぶように返事をしながらひたすら演奏しました。右手側には子供達の姿も見えたので、セサミストリートもやりました。

次第に闇に包まれ始め、ふと見上げるともうクレオ達がいる対岸がほとんど見えない状態に。この時点で右手側の人達も散り散りになっていました。たまに「まだいますか?」と叫んで確認しながら演奏するというのが深夜近くまで続き、そしてついに返事がなくなりました。慎重に椅子から降りて、対岸に行ってみると、クレオは泥酔状態で、そのサポート要員が数名残っているだけでした。彼女いわく「あのチャックが大好きになったヒロシにぜひ会いたかった」とのこと。有り難いことです。そんな会話の最中にクレオが立ち上がろうとしましたが、すでに自力では無理な状態でした。目の前にいた私が手を差し出そうとすると、ものすごい剣幕で叱られました。この辺の礼節はよく分かりません。サポート要員の人達が無言で「お前は何もしなくていい」と目で教えてくれました。

結局、クレオはそれから10分ぐらいしてサポート要員に抱えられながら車に乗り込み、どこかへと去って行きました。てっきり、ここがクレオの家だと思っていたのですが、どうもお姉さんの家だったようです。会が始まる前に話し込んで親しくなっていたお姉さん夫婦もすでに就寝したとのこと。ここまであり得ない状況が続くと、もう笑うしかありません。実際、私も映画を観ているかのようにすべてを心底楽しんでいました。

ここで寝ろという部屋に案内され、何を食べたのか、あるいは何か食べたのかも思い出せないまま眠りについたのでした。向かって右手でBBQをしていましたが、それにありついた記憶はありません。

Selfy

*文中に登場する人物は、本人の確認が取れるまではイニシャル表記にしてあります。

「メドヴィル幽霊ホテル」Supporter's Area「シカゴ」

目 次

はじめに
出国まで
シアトル
カリフォルニアへ
休息日
サニーベール
LAへ
レドンドビーチ
ツーソンへ
アルバカーキ
コロラドへ (奇跡の旅の始まり)
バーザウド
デンバー
オクラホマシティーへ
オクラホマシティー 2 days
テキサスへ
サンアントニオ
ジョージタウン
ダラス
ヒューストン 2 days
ベントン
ナッシュビル (CAAS)
ロスウェル
タンパ 2 days
マイアミ
オーランド 2 days
マートルビーチ
チャペルヒル 3 days
キングスポート
インディアナへ
インディアナ州フィンガースタイルコンテスト
スタテンアイランドへ
マンハッタン
フィリップスバーグ
ナザレス(マーチン工場)
マサチューセッツへ(奇跡の完結)
メシュエン
モントリオールへ
バッファローへ
メドヴィル前乗り
メドヴィル幽霊ホテル
デトロイト
シカゴ
ミネアポリス
番外編
番外編#2「2008年欧州ツアー/出発まで」
チェコ1
チェコ2
ロンドン
リバプール
チェシャム
ドイツへ
レムゴ
インゴルシュタッド
ブレゲンズ
イタリアへ
フィレンツェ
最後のライブ
帰国